溺愛オフィス

【接近中です】



また、空から落ちる雫が私の頬を滑る。

泣いてるわけじゃない。

ただ、雨が私の頬を濡らしているだけ。

なのに、私を見つけ、声を掛けたその人は、気遣うように僅かに眉を寄せて。


「…………」


無言のまま、ベンチから動けないでいる私に、差していた傘を傾けた。

降り注いでいた雨がなくなって。

代わりに降ってきたのは──


「行くぞ」


桜庭さんの、静かな声。


「行くって……」


どこへ?


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