溺愛オフィス

【歩み寄れたらいいのです】



定時になり、私はデスクを片付けて帰る支度を始めた。


祖母の連絡から四日後。

撮影が終わってからも日々忙しく、今日、ようやく残業せず帰れる日となって。


「お先に失礼します!」


挨拶と共に鞄を手にすると、私は少し足早に会社を出た。


初夏の夕空はまだ明るさを保っていて。

けれど、金曜日ということもあってか、駅に向かうサラリーマンやOLの姿は多く見えた。

数人の集団で歩いている人たちは、これから飲みにでも行くのだろう。

名も知らぬ彼らの楽しげな雰囲気を感じながら私は、目的地である、父の入院する病院へと向かった。


電車で20分ほど揺られ、更に駅から歩くこと10分。


あの日、雨の中で桜庭さんと会った公園を通り過ぎると、現れた大学病院。

私は大きく息を吸い込んでから、ゆっくりと吐き出した。


しっかりと父にぶつかれるように。

弱い自分に、負けないように。


< 267 / 323 >

この作品をシェア

pagetop