溺愛オフィス

【解いてくれたのです】



朝が来て、カーテンを開けて、窓の外の景色を眺める。

今日も空は青く晴れ渡り、暑くなりそうな予感をさせていた。


「支度、しないと」


私しかいない部屋でひとり呟き、顔を洗いに洗面所へと向かう。

ここ数日、朝食は喉を通らなくなってきていて、私は今日もミネラルウォーターだけ飲んで済ました。

食が細くなった原因は明確。


数日前に壮介君から聞いた、桜庭さんが海外へ行ってしまう話。

それが、私の心に重く圧し掛かっているからだ。


心は空のように晴れないまま身支度を整え、いつもと同じ時間に家を出る。

同じ時間の電車に乗って、会社に向かって。

オフィスに入れば……


「おはよう蓮井。明日午後からレセプションの打ち合わせ入れるから、あとで通知送る」

「わかりました」


桜庭さんも、いつも通りなのに。

もう、あと少しで


「よろしくな」


いなくなってしまうなんて。


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