ストックホルム・シンドローム


「おはよう、沙奈」


翌日の朝、彼女の部屋に訪れた僕は、ベッドに横たわる沙奈に、挨拶がてらにキスをした。


瞬間、沙奈は小刻みに、小さな身体を揺らし始める。


「気分は、どう?僕はもう最高だよ」


沙奈に語りかけるけれど、どうも何だか様子がおかしい。


何だか…少し息が荒いような気がする。


「…どうしたの?」


心配になってきて慌てて問うと、沙奈は薄く口を開け、蚊の鳴くような声を発した。


「みず…と、といれに…っ」


「水…あぁ!」


沙奈に昨日、水分補給をさせていなかったことを思い出し、血の気が引く。


「ごめん!本当に、ごめん!」


もしも、僕の沙奈が脱水症状を起こしたらどうしたのだろう。


「すぐに持ってくるよ!水を飲んだらトイレも連れて行ってあげるから!」


部屋を飛び出した僕は、ガラスのコップに水道水を注ぎ、棚の中から取ったストローをさした。


僕としたことが。


僕としたことが。


僕としたことが…。


また…彼女に…沙奈に、嫌われてしまうじゃないか…。


呆然としていると、コップから水が溢れ出したことに気づき、蛇口をひねり沙奈の元へと向かう。


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