ハートブレイカー
あ。私、この人を怒らせちゃった?
なんか・・・まずい。
非常にまずいと本能が叫んでいる。

酔った勢いで本音をポロ出ししちゃった結果、彼を挑発してしまった気がする。

『あ・・あの。私、確かに酔ってますね。すみません。上司に対して失礼なこと言ってしまって』

えへ。とか可愛く笑ったほうがいいのかな。
でも、この重苦しいというか、濃密な空気が漂う中、そんなことしたら、自分の首を自分で締める結果にしかならないのは明白だ。

だてに約3年、この人と一緒に仕事をしてきたわけじゃない。
上司の機嫌を無駄に損ねるようなマネをしないよう、彼が何を考えているのか、彼が何を求めているのかを、自分なりに研究してきたつもりだ。
あの飄々とした、ポーカーフェイスから。

それなのに、なぜ私は今、「この人ってこんなにまつ毛長いんだ」とか考えてるんだろう。

切れ長の黒い目。スッと伸びた鼻。
なるほど。
この人みたいな顔のつくりを、「整った顔立ち」って言うんだろうな。

つまり私は、彼の顔から目が放せなかった。

彼の薄い唇がフッと上向いた。
と思ったら、口が開いた。

『後悔してももう遅い。おまえは俺を・・・目覚めさせた』


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