鏡怪潜〜キョウカイセン〜
家で一番気を付けなければならない事は、階段を下りた時に、脱衣所のドアが開いていて、鏡を見てしまう事だ。


だけど……顔を洗うのも、歯磨きをするのも、洗面所に行かなければならないし。


脱衣所のドアを気にしながら、ゆっくりと階段を下りて……ドアは閉まっている事を確認して、ホッと胸を撫で下ろした。


「とりあえずは大丈夫……」


まずはトイレに入り、用を足して再び廊下に。


昨夜の怪奇現象が嘘かのように、脱衣所のドアに変化はない。


リビングに入ると、ソファの上にブレザーが置かれていて、乾燥機にかけてくれた事がわかる。


さて……朝の支度も出来ないのは困るから、歯磨きくらいはしたい。


リビングから出て、脱衣所のドアノブに手を掛けて……私は中の様子を伺うようにドアを開けた。


キッチンにいるお母さんに頼んで、歯ブラシを取って来てもらって、流しで歯磨きをしたいけど、それだけはお母さんが許してくれない。


前にも流しでうがいをしたら、「そんな事は洗面所でやりなさい」と怒られたから。


手が震える……鼓動が早くなる。


開けた瞬間、鏡の中のナニかに殺されるかもしれないと思うと、呼吸が荒くなって喉が渇く。
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