常務サマ。この恋、業務違反です
M-2 探査せよ!
マンションを出て大通りに出ると、川沿いの桜が満開だった。
つい見惚れて、綺麗だなあ……なんてボーッとしたせいで、いつもと同じ満員電車に乗っていつもと同じ駅に降り立って、自動改札に思いっ切り阻まれたところで、私はやっと向かうべき方向が違うことに気がついた。


慌てて下りの空いている電車に飛び乗って、丸の内に向かう。
電車の中で一人ジタバタしながら腕時計を見ると、余裕を持って部屋を出たのが幸いして、始業時間にはギリギリ間に合う時間だった。


それでも、『派遣』二日目。時間スレスレに出社したら、何を言われるかわからない。
昨日のあの一件で、私は何故だか人事部長に目を付けられたっぽいし、この上いきなり遅刻なんかしたら、『派遣元』のうちの会社の印象を悪くしてしまう。


いや、社としては『穏便に委託契約解除』を考えているから、今私がこんなスパイ活動をしてる訳で、印象がどうとかどうでもいいだろう、と思う。
それでも、相手は超大手外資系企業。
ここでの評判がどこから外に漏れるかもわからないし、現段階でウェイカーズがうちのクライアントってことに変わりはない。


駅の改札を抜けて、地下通路をとにかくひた走った。
桜も満開のこの時期、それほど長い距離じゃなくてもヒールで猛ダッシュすればそれなりに汗も滲む。


高級オフィスビルの総合エントランスに辿り着いた時には、白いブラウスがぴったり肌にくっついていてかなり不快感いっぱいだったけど、それと引き換えに『遅刻』という事態は免がれた。


オフィスフロア専用の高層階エレベーターに飛び乗って、ほんの数十秒後、三十階でドアが開いた。
昨日とは違って、私は真っ直ぐ高遠さんの執務室に向かう。
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