腹黒教師の甘い策略
「あー、いや、まあね。」
きらきらとした目で見つめる生徒たちをかわして、教室を出る。
……やばいな。時間もわからなくなるくらいぼーっとするとか。
それくらいに、頭の中の半分以上があいつに支配されてる。また、一人で泣いてそうだな。
戸川を思い浮かべながら泣くなんて、癪にさわる。イライラする。どうせならずっと俺の顔を思い出してればいい、なんて、
「相当、夢中なんだな、俺は。」
そう呟いて少し笑う。
……そうだ。バレッタ。
あいつ、今もあの白いバレッタつけてたんだな。ああいうのが好みなのか。
そんなことを考えて、緩みそうになった口元を手で隠しながら渡り廊下を歩いていると、向こうから近づいてくる人影に気づいた。
鬱陶しいくらい眩しい白いシャツに身を包んだ男。
「ああ、おはようございます。谷崎先生。」
「……おはようございます。戸川先生。」
すれ違いざまに爽やかに笑って挨拶をする戸川に、わざとらしい笑顔を向けた。
……自分も性格がいいわけじゃないけど、こいつのほうがよっぽど質が悪い。
よくそんな平気な顔してここに来られるな。
有沢と戸川の顔を交互に思い浮かべ、咄嗟に出そうになった右手を左手で抑える。