腹黒教師の甘い策略


そう言った香織が差し出した私の携帯の画面には、聖司の名前と電話番号。
浮気を知ったとき、連絡先を消そうと思ったが、ほんのすこしの未練が邪魔をして消せなかったのを思い出した。

香織の言うとおり、別れようって言ってしまおうかな。このままずるずるこの関係を引きずるのもめんどくさい。


「美味しいものを食べたとき、一番にその美味しさを伝えたいのは?お気に入りの映画を見つけたとき、一緒に見たいと思うのは?

この質問の答え、全部出てるんでしょ?」


香織のその言葉が迷っていた私に追い討ちをかけた。

……そんな聞き方、ずるい。
でももう、わかってる。


私は意を決して、携帯を手に取った。
そんな私を見て香織は少し微笑んで、何事もなかったかのように、ウーロンハイを飲み始めた。


……最初に何て言おう。
別れよう?別れたい?浮気してるの知ってるんだから?

何度も同じような言葉を繰り返しイメージして、コール音を聞く。
4つめのコール音で、やっと声が聞こえた。


「もしもし?悠姫?どうかした?」


「あ……っ、あの、話があって……」


聖司の声が聞こえた途端、よほど緊張していたのか、声が裏返った。

……なにしてるの。落ち着いて。ただひとこと、別れようって言えばいい。

何度も言い聞かせ、息を整える。


「話って?」

いつも通りの優しい声。少し前までそれを聞いただけで泣きそうになったのに、今はもうなんとも思わない。そんなことよりも、頭はもうあいつでいっぱいで、隙間なんてもうなかった。

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