「お帰りにならなくて宜しいのですか?」


私がそう言う相手は、かなり厚みのある英語で書かれた契約書を読む社長。


時間は夜の10時過ぎ。

ここは、TDG Intl. Co., LTD. 本社ビル25Fにある社長室。



「ああ、まだいい」


社長は書類から目を上げることもなく、低い声を響かせて。



「………」


その姿に、いいのだろうかと、複雑な思いが過る。


つい1時間ほど前、電話の向こうから聞こえた声は小さな咳をしていて。

普段なら何とも思わないそんな咳も、あんな高熱の後では気になって仕方なく。

何しろその人は、この冷徹な社長が仕事を切り上げてまで迎えに行くほど大切にしている人なのだから。



「あの、社長――」

「何だ、山崎」

「咳、をしてらっしゃいました」

「ん?」


そこまで言うと、ようやくその冷たく整った威圧感たっぷりの顔が書類から上げられた。



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溺愛  社長  イケメン 

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