花明かりの夜に
「若さまったら、遅いわね。もう出る時間なのに」

「そうですねぇ。

今日は特別な日――大事なご婚礼の日なのに」


女中頭の春花に言われて、桂は首をかしげた。


「もう支度は終わっているはずなんですが……

ちょっと様子を見に行ってきます」

「ああ、そうね。お願い」


桂はひらりと身をひるがえして、小走りに紫焔の部屋へ向かう。


(どうしたのかしら。何かなくしたか、口喧嘩でもしているのか――

いやいや、きっと――)


中庭を抜けるころには、答えは分かっていた。


(――やっぱり)

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