極甘上司に愛されてます


「やっぱり、か……」


手に汗握りながら夢中で操作していたマウスから手を離すと、私は椅子の背もたれに身を預けた。

同僚たちは営業か取材かで外出中のため、フロア内には今私ひとり。

それをいいことに、不謹慎だとわかっていながら、職場のパソコンであんな心理テストをやってしまった。

私はちら、とパソコンの画面に視線を戻す。

そこに映し出されたショッキングピンクの文字が、煩わしくて仕方ない。

煩わしいけど……真実、なんだよね。

私は深いため息をついて、冷めたコーヒーに手を伸ばした。


ここは、私、北見亜子(きたみあこ)が働く、新聞社のオフィス。

とはいっても、社員総勢でも二十名足らずの小規模な会社。

いちおう新聞と名がついているけど、作っているのは会社周辺の地域住民に配るフリーペーパーだ。

地域に密着した記事内容は住民からの評判が良くて、その経済効果から載せてほしいと依頼してくる企業も多い。


ちなみに私の担当は、取材して、記事を書いて、読者に伝える……いちおう新聞記者っぽい仕事。

机の上には記事にするための資料が山積みだから、早くなんとかしなきゃいけないのに……



「……仕事中になにやってるの?」


呆れ顔で後ろを通りかかったのは、営業から帰ってきたらしい先輩社員の飯沼理恵(いいぬまりえ)さん。

パンツスーツの良く似合う三十代前半の彼女の左手には結婚指輪がキラリ。

……ワーク・ラブ・バランスの均衡がとれている証拠だ。羨ましい。


「理恵さん……いえ、このままじゃダメだと思いまして」

「そりゃ、仕事中に遊んでるのはよくないわね」

「そうではなくて……この結果がですよ」


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