「う……熱ある」


金曜日の朝。

わきの下で音を立てた体温計を目の前にかざすと、その表示は37.7℃だった。

普段からわりと体温は高い方だから、まぁ微熱程度だよね。
今日は大事なインタビューの日なんだから、這ってでも会社行かなくちゃ。

いつも通り支度をして口元をマスクで覆うと、私は自宅アパートをあとにした。


出勤してすぐに給湯室で薬を飲もうとすると、コーヒーを入れに来た理恵さんと顔を合わせた。

彼女はシンクの上の風邪薬のパッケージと、マスクをつけた私の顔とを見比べて言う。


「あら、亜子ちゃん風邪?」

「はい、どうやら……」

「あらま、お気の毒」


ドライな口調でそう言うと、自分のマグカップにコーヒーを注いですぐに出て行こうとした理恵さん。

けれどなぜだか扉の所でぴたりと足を止め、私の方を振り返ってこう言った。


「そういえば……この間言ってた、ワーク・ラブ・バランスの話だけど」


……なんだろう。理恵さんからその話を振って来るなんて意外だな。

首を傾げつつ言葉の続きを待っていると、彼女は静かに言う。


「……無理して両立しようとしても、うまくいかないもんよ」

「え……なんでですか?」


理恵さんは少し間を置いてから、自嘲するように言った。


「……私がそうだから」


私が目をぱちくりさせていると、理恵さんはそれ以上何も言わずに給湯室から去ってしまった。


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