極甘上司に愛されてます


……私、なんで抵抗しなかったんだろう。

体調不良で、しかも不意打ちだったとはいえ、自分の彼氏が知ったら悲しむようなこと……もっと毅然とした態度で拒まなきゃダメだったのに。

このこと……渡部くんに話すか話すまいか……

悩みながら何気なく視線を動かすと、出窓に置いた花瓶が目に入る。

少し元気がなくなってきたけれど、まだまだキレイに咲いているたくさんの花は、取材の日に“騒がせ賃”として編集長がくれたものだ。


……いきなり結婚式の再現はされる。花束を贈られる。挙句の果てにはキスされる。
もしかして私、からかわれてるのかな?

恋にうつつをぬかし過ぎて仕事をミスするわ、彼氏と間違えて上司に別れを告げるなんてヘマをやらかすわ、間抜けすぎる部下だよね……どう見ても。

だから、わざと私がどぎまぎするような行動を取って、その反応を見て楽しんでいるのかもしれない。
そう思うと、納得できることばかりだ。

菊治さんが言っていた“悪がき”という言葉もそれなら頷けるし、そんな意地悪をして楽しむ性格の人と結婚したら、確かに苦労しそうだ。

優しそうに見えて意地が悪いなー、編集長。ひとまわりも年上なのに、大人気ないと思わないのかな……

編集長の性格はともかくキスの理由が腑に落ちたところで、私は椅子から立ち上がった。

気分転換にコーヒーでも、とキッチンの棚を開け、ついでに甘いものでもないかとそこを物色する。

そうしていると、ふいに玄関のチャイムが鳴った。

まさかまた編集長……?と少し身構えながらキッチン脇のモニターを見ると、そこにいたのは予想外の人物。


< 62 / 264 >

この作品をシェア

pagetop