アイスクリームの美味しい食し方
母が私を抱きしめた。


「怖い思いをしたわね。
辛かったでしょう。」


あれ?
なんだな。


大したことないと
思ったのに。



「も…燃えちゃった…の。」
声がうまく出ないや。

「うん。」


「だ…台所も。

ちゃぶ台も。

服も。マグカップも。」

「うん。」

母が私の頭を撫でた。



「ぜっぜぶっ。

全部燃えちゃったあああああっ…

うゔぅーっ…」


そう、お母さんと暮らした
私たちの部屋は
跡形もなく燃えちゃったんだ。


「ごめんね。ごめんね、チカ。」


お母さんは仕事ばかりしてて、
いつも私はあの部屋で待ってた。


さみしかったけど、
ちゃんと分かってた。

仕事から帰って、
泣き疲れて眠る私を抱きしめて
くれたこと。

布団に運んで、
おでこを撫でてくれたこと。

仕事がない日は、
一日中可愛がってくれたこと。



私にとって、
あの部屋は、
母を待つ場所なんだ。


どんなに寂しくても、
あそこで待っていれば、
必ず帰ってきてくれる。



それが燃えてしまった。



ねぇ、お母さん。
お母さんを私は
どこで待てばいいの?


あの部屋がなくなったことを告げたら、
お母さんが
もう帰ってこないんじゃないかって


私はそれが怖かったんだ。



私は、母の腕の中で
子どものように泣いた。
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