キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~


「てん、ちょ、ごめんなさ、ちょっと苦しい……」

「今、なんて?」

「はい?」


力をゆるめた店長が、なぜか私をにらんでいる。


「さっきから何回も言われてるけど、いい加減『店長』はやめろ」

「あ……!」


そういえば、二人のときは呼び方を変えろって言われてたっけ。

路上だけど、周りには誰もいない。これは、『二人の時』に含まれるのですね。


「じゃあ、や……矢崎さん」

「それじゃ大久保より下だ。あいつは『矢崎くん』だぞ。不本意だが」


人の呼び方に下とか上とかあるんですか?

大久保さんは同期だもん、『矢崎くん』になるでしょうよ。


「しゅ……しゅ……俊しゃん」

「さ行が多くて、おかしなことになってるぞ」

「もうやだ!恥ずかしい!」

「さっきのお前の発言の方が、よっぽど恥ずかしいだろ」


私、なに言おうとしたんだっけ?

店長にキスされて、全部吹っ飛んじゃったよ。

でも、聞き返すのも恥ずかしいから、このまま忘れてしまおう。


「じゃあ……俊!」


やけくそ気味に言い放つと、店長はニヤリと笑った。


「よし。合格にしてやる」


そう言うと、彼は私の片方の髪を耳にかけ、もう一度唇を寄せる。

煙草の香りがするキスを何度も交わすうち、背後で電車が線路を駆け抜けていく音がした。



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