キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
12・鬼のような雨の夜


数日後、全店に向けた社内メールで、人事異動が発表された。


「店長!一か月後に北京ってどういうことですか!」


異動については何も知らなかったらしい長井くんが、大きな目をまん丸くして叫んだ。


「営業中に叫ぶんじゃねえよ。昇進試験に受かって、そのまま北京に飛ばされることが決まった。それだけだ」

「それだけって……」


長井くんは目を丸くしたまま、私を見つめる。

私は曖昧に苦笑するしかなかった。


「おめでとうございます。店長は栄転だから、いいですよねえ。僕なんて、降格して九州ですもん……」

「そりゃあ自業自得だからしょうがないじゃないの」


落ち込む杉田さんに追い打ちをかけたのは、平尾さんだ。

お腹を隠せる丈のチュニックに、デニムを履いている。


「あれ、いつのまに?」


長井くんが聞いた。

それもそのはず、平尾さんはとうとう首切り1週間と少し前になって、有休消化期間に入っている。

なのにどうして、お店にいるのか?


「店長が北京に異動って話を聞いて、最後に挨拶に来たんです。今までありがとうございました」


きっと、他のパートさんか誰かに聞いたんだろう。

平尾さんは紙袋に入ったお菓子らしきものを、加工台にいた俊に渡しにいった。

俊は珍しく驚いた顔をしていて、他のメンバーもはらはらしながら二人を見守っていた。


「いえ……こちらこそ」


俊がお菓子を受け取ると、平尾さんはくるりと振り向き、意外にさっぱりしたような表情で言った。


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