「実和ちゃん。今帰り? 俺とうまいメシでも食べに行かない?」


女タラシモード全開の艶っぽい声でそう話しかけられたのは、翌週火曜日の勤務時間終了後。

時計を気にしつつ、そそくさと席を立ち、パーテーション奥の扉に向かおうとしたら、ポンと肩を叩かれた。

仕方なく振り返ると、これ以上はないほどキラキラ眩しい笑顔とぶつかる。


「いえ。今日は早く帰りたいのですが……」

「なんちゃって、ついに斎藤君のお誘いにオーケーしたんだろ。悠長に構えてたら、危うく先を越されるところだった」


斎藤先生との約束が、なぜバレた。

私の焦り顔からそれを読み取ったのか、「だって今日はいつにもましてお互いを意識し合ってるし、二人とも時計を見る回数が多いもんね」と答えてくれる。

そこへ不機嫌そのものに眉間のしわを深くした斎藤先生が、大股で歩み寄る。


「実和ちゃんの肩に気安く触るな。この遊び人が」

「え、そこは俺と実和ちゃんの三年の付き合い? 実和ちゃんだって全然気乗りしない斎藤君とのシケた食事より、俺との方が楽しい時間を過ごせるだろ」


……正直、どちらも気乗りしません。

ハラハラした顔でこちらの様子を伺ってくる岸先生はともかくとして、鈴木夫妻は完全無視。

こんな出入り口で事務所のメンバー三人いざこざ真っ最中だというのに。

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