麗雪神話~炎の美青年~

赤い大地に純白の威容が目を引く巨大な天幕が、アル=ハルの天幕だった。

セレイアとディセルの二人は中に入ると手織りの上質な絨毯をすすめられた。

座れと言う仕草だと思うが、椅子がない。

セレイアが困惑していると、ディセルがさっさと絨毯の上に腰を下ろした。

アル=ハルも肘掛け付きで一段高くしつらえられたスペースに腰を下ろす。

この国では地面に直接座るのが流儀らしいと気付き、セレイアもそれに倣った。

記憶のないディセルの、この順応性は羨ましい。

さっと奥に引っ込んだカティリナが、ワゴンを引いて戻ってきた。

ワゴンの上には所狭しと、酒や肴、見たことのないお菓子のようなものが載せられている。

カティリナは巨大なジョッキになみなみと黄金色の酒をつぐと、恭しくアル=ハルの前に置いた。

ディセルとセレイアの前にも同じ酒の入ったグラスが置かれたが、

「あ、あの…お酒はちょっと…」

とセレイアが慌てると、心得たもので、果物のジュースと交換してくれた。

ディセルは興味深そうに酒を眺め、ちびちびと口をつけているようだ。

―う~ん、やはり羨ましい順応性。

「まあ、ゆっくりとくつろいでください」

アル=ハルはそういうと姿勢を崩し、だらりと肘掛けにもたれかかった。

そしてジョッキに注がれた酒を、ごくごくとごく自然に…一気飲みしてしまった。

セレイアは目を丸くする。

(こんな朝から、ジョッキ一気飲み…!!)

この男こそ只者ではない。

ぷはあ、と息を吐き出したアル=ハルは、満面の笑顔で話し始めた。
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