課長の独占欲が強すぎです。

「美味しい!」

 小食だけど、美味しいものを食べるのは大好きな私。濃厚なデミグラスソースとジューシーなハンバーグに顔がニコニコと綻んでしまうと、隣の東さんも「喜んでもらえて良かった」とこちらに向かって目を細めてくる。

 幸せな気分になって2口目のハンバーグをフォークに刺そうとした時、向かいの席の宍尾さんの姿が目に入った。

 豪快、とでも言おうか。私が3口ぐらいに切って食べる量をあっさりと1回で口の中に収めてしまう。そんなペースで食べれば、まるで魔法みたいにパッパと消えてしまうお皿の上の料理。けれど、豪快ではあるけれど決して卑しくも下品でもなく、むしろ綺麗なナイフとフォークの使い方でスイスイと食べる様は見ていて気持ちが良かった。

「何を見ている」

 思わず見過ぎてしまっていたのか、私の視線に気が付いた宍尾さんが目だけこちらに向けて声を掛けてくる。

「わ、すみません。美味しそうに食べられるから、つい見入っちゃって。宍尾課長の食事姿見てたら私も食欲湧いてきちゃった。よーし、いっぱい食べるぞ」

 改めてナイフとフォークを握りなおした私に、宍尾さんは「変な奴だ」と小声で呟いてから食事を再開させた。

 鉄板の上のハンバーグは食べられるのを待ってるかのように美味しそうな湯気を立てていて、私は大きめに切ったそれにフォークを指すと大きな口を開けてパクリとかぶりついた。


 
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