片道切符。

雛鳥が、旅立つ



* * *


いつものデートと、なんら変わらないはずだった。

それは久しぶりのデートっていうだけで、待ち合わせをして、

目的もなく、気の向いたままに、行き先を決めて…。


『最後に、制服デートしようよ』

電話で彼女にそう告げられたとき、もっと注意深くなるべきだった。

彼女の受験が立て続けにあって、自由登校になっても、ろくに会うことができなかった。

だから、久しぶりにゆっくり会える喜びと、高校卒業前の最後の”制服デート”という言葉の響き。

気持ちが浮ついて、言葉の裏にある彼女の気持ちを、俺は察すことができなかった。



「桜、まだ咲いてないね」

「当たり前だろ。まだこんなに寒い」

3月になったとはいえ、気温はまだまだ低い。


放課後よく二人で訪れた公園には、囲うようにぐるりと一周、桜の木が植えてある。

去年の春に来たときは、それはそれは綺麗な景色だった。


公園内にあった自動販売機でホットのココアと缶コーヒーを購入する。

「ほら」

ココアのほうを彼女に差し出せば、「ありがと」と小さく笑う。


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