月だけが見ていた

最初は
おそろしく仕事の出来る女だと思った。


「…上原」

「はい」

「これ、全部一人でやったの?」


提出された企画書をめくりながら、呟くように問いかけた。


「はい…いかがでしょうか」


新卒で我が社に入社した彼女の教育係は、主に別の部下に任せている。

普段あまり関わる事のない俺に呼び出され、彼女は心なしか緊張しているようだ。


俺は無言で書類のチェックを続けた。


全体の構成、文章力、資料の信憑性、…


「完璧。」


俺が力強く印を押すと、上原は明らかに安堵の表情を見せた。



……お、笑うと結構好み。
< 29 / 84 >

この作品をシェア

pagetop