月だけが見ていた

…どのくらい時間が経ったのか。


葉子の体には、未だ懸命な処置が施されているんだろう。

次々と病室に入っていった医師や看護師は、俺を一瞥しただけで乱暴に扉を閉めた。



「……」



体が疲れているのか
頭がぼんやりとしてしまう。


ひとり、待合室の長椅子に腰掛けて
俺は、葉子の頬に流れる涙を思い出していた。



ーーー あいつの涙なんて、初めて見た気がする。


……いや


二度目、か。
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