私の優しい人
◇6◇
 不幸は不幸を呼び込むようで、私はその翌朝、可燃ゴミを集積所に出しに行く途中で足を捻った。

 どうしてこうなったのかなんて、転ぶ自分を見ていないから分からない。

 なぜだか転んで捻った。安い樹脂サンダルのせいだろうか。

 目撃者もなく、一人誰にともなく薄く笑うのも悲しい。

 私のドジに今更な母は、黙って湿布を投げて寄越しただけだった。
 朝は忙しい。しょうがない。

 昨夜の事がまだ「響いている私は、この世で一番惨めな人間だ。



「ごめん。私、今日は湿布くさいから」
 一番の被害者となる隣の席のイケメン後輩工藤さんにまず謝っておく。

 私の足首には、母愛用の湿布とたまたま薬箱に入っていたネット包帯。

 パンツの裾で隠れているけれど、臭いは隠せない。


「言われたら確かに湿布くさいですね。四十肩ってやつですか。アラフォー……じゃなくて、アラサーも大変ですね」
 彼は、少し匂いの元を探るような仕草をして、爽やかにそんな事を言い放った。

 いやいや肩からは臭わないはずでしょ。

 私の彼の方が格好いいと、うっかり発言してしまって以来、この後輩は冗談で済む程度に何かと小さく突っかかる。

 いつもなら笑って知らんぷりだけど、今日はダメだ。
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