極上ドクターの甘い求愛



私立の大学に入学した時、私は青春に割く時間を全て勉学に向けた。

医学部には劣るものの、私立の薬学部の学費は、一戸建てを買えちゃうほどバカ高い。そんな大金を、平平凡凡な家系で賄えるわけもなく、私は奨学金をより多く受けるために、必死に勉強した。

おかげで卒業後の私にはとんでもない額の借金が残っちゃったけど、でも…お母さんとお父さんに迷惑をかけるよりかはマシだと思った。

国立の薬学部に落ちたけれど他の学部には国立で受かっているものもあった。だけど、私立の薬学部に行きたいという私の願いを、快く受け入れてくれた両親に、これ以上余計な心配はさせたくなかった。

だから、サークル活動とか友人との旅行とか恋とか、そういったものは全て勉学に費やしてきた。そのことをお母さんやお父さんには隠してたけど…とっくの昔にバレていたらしい。


『…もう繭は立派な社会人なんだ。これからは…自分の人生を思う存分、歩みなさい。』

「っ……そんな、いつも私の思うようにさせてくれたじゃない…っ」

『そんなことないさ。繭にはたくさん、我慢させていたからね。』


~~~…っ

溢れる涙が止まらない。

我慢なんて…違うよ。我慢させられているなんて、一度も感じたことなかった。私は…どんな無茶苦茶なワガママもできる限り叶えてあげようとしてくれていた両親が大好きで、たとえ自分の思う通りのことが叶わなくても、それは自分にそれを叶えるだけの何かが足りなかったんだと思ってた。そう思うことで、私自身がもっと成長しなきゃって次のステップに移ることができていたんだ。


『繭…幸せになりなさい。』

「っ……お父さん」

『お母さんもお父さんも、繭が決めたことなら何も反対なんてしないから。自分が思うようにしなさい。毎月の仕送りだって…しなくてもいいんだぞ。老後の生活費くらい、ちゃんと貯めてあるんだから。繭が働いてもらったお金は、自分のことに使いなさい。』


きっと私が泣いていることなんて、電話越しのお父さんには筒抜けなんだろう。

でも、何も言わずに私の背中を押してくれるお父さんも、ちょっとお節介の度が過ぎてしまうお母さんも、私の大切な家族で、この人たちを悲しませちゃいけないと強く思ったんだ。



< 136 / 234 >

この作品をシェア

pagetop