梅雨の翳りが残る初夏の事だった。


 昨日まで降っていた雨の名残からか妙に湿度が高いのに、いきなりの晴天に見舞われた街はいつも以上に蒸し暑さを感じさせていた。夏物のスーツとはいえ、次第にきちんとした姿が厳しくなる。でも、厳しいのはこの蒸し暑さだけでなく横を歩いている人の何を考えているか分からない状態で一緒に帰っているからかもしれない。


 何度も何度も一緒に並んで帰ったのに、今日は全く違う気がする。


 努めて平静を装い、自分の心をどう抑えようかとふと視線を上げると、私の視線を捉えるかのように視線が降り注ぎ、その視線から逃げるように私はすでに暗くなっているアスファルトの舗装に視線を移した。お気に入りのパンプスのヒールがコツコツと音を立てているのが妙に響く。


 いつもならこんな音は気にならないのに今日は妙に気になってしまう。一緒に帰っているのに何を話したらいいのか分からずに口籠る私がいる。

「なぁ」


 横を歩きながら、静かに降り注ぐ声に私はドキッとしてしまった。少し拗ねたような声にドキッとする必要もないのに、ドキッとしてしまう。それは私が自分の右横にいつも以上に緊張を張り巡らしているからだと思う。たった一言で私の意識を全部持っていく。


「そんな態度取られると何か悪いことした気がする」


「そんなことないけど…」


「いつも通りにしろよ。そうじゃないとこっちが困る。別に取って喰うわけじゃないし。まあ、望むならいつでも俺はいいけど…」
 

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