幸せそうな顔をみせて【完】
8 彼女の攻防
 営業室に戻ると、私は隣の席に副島新は居なかった。白板を見ると、企業での打ち合わせとなっている。それにしても今日は本当にすれ違うばかりで…。少し淋しい。


 そんな思いを描きながら携帯を開いてみても、メールの一つもない。


 今までも必要以上のメールをしない人が今日に限ってするなんてことはないのに、私の気持ちの甘さが期待して、そして、沈む。こんなにも恋愛に生活の全てを呑まれるとは思わなかったので、自分に自身で驚いていた。元々、好きだった人からの告白は嬉しいもの。でも、だからと言って、こんなにも自分が恋愛のことで頭がいっぱいになるとは思いもしなかった。


「切り替えなきゃ」



 そんな言葉を自分に言い聞かせ、必死に気持ちを仕事に持っていく。副島新は仕事が出来る。そんな彼の傍にいると決めたのだから、見劣りする私ではいけない。


 気持ちを切り替えようと、今日の資料の整理をしようと思ってバックから出すと、今日、応対してくれた課長の緑川さんのことを思い出した。ピンポイントで説明を求めてくる。準備はしていったつもりなのに少し甘かった。


 彼女を納得させ、もっと興味を引き出すことが出来ればよかったと思うけど、それでも、あれで私にとっては頑張ったつもりだった。でも、今は足りないと思う。


 私はパソコンを開くと資料の見直しをすることにした。今度会う時までに万全の準備をしておきたい。そんな思いで私はパソコンのキーボードを叩いたのだった。
< 128 / 323 >

この作品をシェア

pagetop