幸せそうな顔をみせて【完】
 困るっていうけど、絶対私の方が困っている。それに喰うって…。望むならって…。
もう頭の中がパニックになりそうだった。なりそうじゃなくもうパニックになっている。仕事で疲れた頭の中でヒールを脱ぎ捨てた私がバタバタと走り回っている。


 どうこの展開を切り抜けようかとシミユレーションして、そのどれもが効果的でないと即座に判断してしまう。こういう時、自分の理系の頭を恨んでしまう。もう少し文系の頭を持ち合わせていたら、もう少し、気の利いた言葉を言えるのだろうに。それに少しの酔いが一段と冷静な言葉を紡ぎだすのを阻害する。


 そんな焦る私のことなんか全くお構いもせずにポンポンと言葉を投げてくる。こういうとこに優しさとか思いやりとか感じない。もっと私が素直になれるようにして欲しいのに…。そんなことはなくて静寂の後にポンポンと言葉が飛んでくる。


「俺のこと嫌い?」

「ううん」

「じゃ、好き?」


「………」


 世の中には好きと嫌いとしかないとでも思っているのだろうか。多分、言っている意味は『男』としてどうかということであって、正直、意識しまくりだった。でも、それは私の中の秘めてある思いであってその本人を前にして曝け出す勇気なんか持ち合わせてない。

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