幸せそうな顔をみせて【完】
 私は彼のことが好きだった。いつから好きだったのか分からない。でも、今、彼のいう意味での『好き』という気持ちを私は持っている。だからといって、こんな風にポンポンと言われてしまうと…どのタイミングで言えばいいのだろう。


 こういう時に素直に好きっていえば可愛いけど、自分の心を曝け出すようで躊躇してしまう。それにしても、なんであのタイミングだったんだろう?運が悪いというかなんというか…。


 それにしてもどうしよう。


 胸元のネクタイをそっと緩めながらゆっくり歩く彼は前を向いたまま躊躇うことなく…自分の気持ち?を口にする。


「俺、後悔してないし。だって、お前。俺のこと好きなのにいつまで経っても何も言ってこないから、痺れを切らしただけ。このままじゃ、俺の知らない所でなし崩しの他の男に持って行かれそうだし」


 私が彼のことを好きな前提で放たれる言葉。これも間違ってはいない。でも、今日は何がどうしてこうなったのだろう?言葉を探す私に彼は追い打ちを掛ける。


「葵と結婚して、俺は幸せになりたい」


 いきなりの結婚宣言。これってプロポーズ?加速度を増している。


 その日はつい一時間ほど前までは普通の一日だったのに、たった一時間でまるでドラマのような展開を見せている。何がどうなったらこうなるのかわからないけど、それでも、これは私の上に降り注ぐ現実でどうしたらいいのか思案してしまう。

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