幸せそうな顔をみせて【完】
 私は鏡の中の自分を見て何度も何度もチェックしていた。


 職場でしか会わない副島新は私の私服を見たことはない。この二年間、個人的に出掛けたことはないし、職場での旅行なんかはもう少しカジュアルな姿をしている私は今日はワンピース。それも買ったばかりのもので珍しく一目惚れして衝動買いしたものだった。


 自分ではそれなりに似合っていると思うけど、副島新はどう思うだろう。


 少しは似合うと思ってくれるだろうか?


 別に男の人によって自分の着たい服とかイメージを変えるつもりはない。でも、少しでも可愛いと思われたいし、似合うとも思われたい。そんな思いが『恋をしている』からなのかもしれない。私は副島新に可愛いと思われたいのだった。


 そして、鏡の前に居る私に届いたのは携帯の震える音。


 約束の時間ピッタリに私の携帯が震え、そこには副島新からのメールが来ていた。


『マンションの前』


 そっけないメール。でも、副島新らしい。


 急いでバッグをもってマンションから出ると、そこには一台の車が止まっていて、窓がするーっと開いて、中からは副島新の綺麗な顔が覗かせていた。


「もう、大丈夫か?」

「うん。でも、車で行くの?」


「ああ。予約したし、さ、乗れよ」


 近くのカフェでいいって言ったのに、副島新は私をどこに連れて行くつもりだろう。


 お腹はペコペコだった。



 
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