幸せそうな顔をみせて【完】
 副島新は自分の行きたい場所に直行するかと思ったけど、そうではなく、ファッションビルの中をゆっくりと進む。私がちょっとでも視線を移すと、フッと綺麗な顔に微笑みを浮かべ、繋いでいた手をゆっくりと放した。


「見て来い。俺はあっちで待っている」


 そういうと近くにあるソファに座ると、ポケットから携帯を取り出し弄りだしたのだった。目の前のテナントはたくさんの女の子が溢れているから、その中に入りたくないのかもしれないけど副島新なりに私に気を使ってくれている気がしていた。


「すぐに戻るから」


 そんな言い訳のような言葉をその場に残して私はテナントの中に入ったのだった。



 私はフラフラと何を買うというのはないけど、それでも、雑貨とか洋服とかを見て回るのが好き。だから、久しぶりに来たこのファッションビルは見たいところがいっぱい。一つのテナントを見終わると隣のテナントが見たくなる。どうしようかと思って、ソファに座っている副島新を見ると、私の方を見ていて、ただ頷く。


 隣もいいってことなの?


 隣のテナントを指さして、副島新を見るとまた頷く。そして、また携帯を弄りだしたのだった。


 普通なら気を使わないといけないかもしれない初デートなのに、なんでこんなに私は気を使わずに好きなことをしているのだろう。でも、それに副島新は何も言わず頷くだけ。


 私もそれに甘え、十分にショッピングの時間を楽しんだのだった。
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