幸せそうな顔をみせて【完】
「え?」


 副島新はクローゼットの扉を開けるとそこからまたシャツを取り出し、そして、ベッドに座ると横になっている私の頭にそっと手を触れさせた。しなやかな繊細な指は額に掛かる髪をゆっくりと撫でて、そっと頬に手を寄せたのだった。その優しい手の動きにそっと目を閉じると、聞き違いかと思うくらいの言葉が私に降り注ぐ。



「自分で脱ぐか、俺に脱がされるかどちらがいい?」


 優しい声と態度とは裏腹な衝撃的な言葉。


 脱ぐって言葉にドキッとしてしまう。副島新の端正な顔。形のいい唇から零れる言葉はとっても色を纏っているような気がしてならない。単に着替えなのに、どうしても違う方を想像していまうのは私が可笑しくなっているからかもしれない。


「自分に決まっている」


「残念」


 副島新はニッコリと笑うとそっとベッドの端に綺麗に畳まれたシャツを置くと、ゆっくりとリビングの方に消えて行ったのだった。ゆっくりと身体を起こしながら、私は副島新が消えて行ったリビングのドアを見ながらホッと息を吐く。昨日からの副島新は優しすぎて私の頭がついていかない。


 大事にされるのは嬉しいけど、こうも違うと調子が狂ってしまう。


 でも、時間はない。


 副島新が戻ってくる前までになんとか着替えを終わらせ、ワンピースをベッドの横にある椅子に掛けるとベッドに潜り込み、フッと息を吐いた。


「本当に風邪なのかしら?」





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