ご懐妊は突然に【番外編】
「今日は本邸で両親と一緒に食べよう」

私達は匠さんの実家の敷地内にある離れで暮らしている。

本邸はそこから五分ほど歩いたところにあり、絵に描いたようなコロニアル様式の大豪邸だ。

夕飯を食べるべく私達は本邸へ向かった。

仰々しい二枚扉の前に立ち、低く響き渡るベルを鳴らす。

暫くすると、木の扉が軋みながら開いた。

「お待ちしておりました」

執事の轟さんが穏やかな笑みを浮かべて出迎えてくれる。

そのまま葛城夫妻が待っているダイニングまでエスコートしてくれた。

「匠、遥さんも来てくれたのか」

久しぶりに会った葛城父は少しやつれ、疲れているように見えた。

いつもテンション高めの義母も元気がないように見受けられる

「お久ぶりです」

私はぺこりと頭を下げ匠さんと並んで向かいに座る。

な、なんなのだろう。この重苦しい雰囲気は。

「燁子から連絡は?」匠さんが気まずい沈黙を破った。

「ないわ。こっちからいくら連絡をしても繋がらないのよ」

葛城母は悲しそうに目を伏せる。

話しの内容が掴めずに私はキョロキョロと他三人の顔を伺う。

「燁子が男と失踪した」

匠さんは苦々しくボソリと呟いた。

「ええええええ?!」

私は思わず絶叫してしまう。

「それって、俗に言う駆け落ちってこと?」私は遠慮がちに尋ねる。

「まったく、我が家の体裁も顧みず大胆なことをしてくれたよな」

匠さんは冷たい口調で言い放った。
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