ご懐妊は突然に【番外編】
夜が更けるにつれて私の陣痛はますます激しさを増す。

全身から尋常じゃないほど汗が吹き出して、腰が砕けるんじゃないかというくらいのビッグウェーブが私を襲う。

鼻からスイカが出る痛み、とはよく言ったものだ。

私がいきむなか、匠さんはただオロオロとしているだけだった。

「腰っ!」

私が命令すると匠さんは「は、はい!」と言って甲斐甲斐しく腰をさすってくれる。

少しでも手を休めると「何でやめるのよ!」と叱りつけた。

「がんばれ遥!がんばれー!」と応援するが「静かにして!集中できないでしょ!」と私に一喝される。

下僕のような匠さんの扱いを、マテリアル部門の人たちが見たら顔面蒼白になるだろう。


そして陣痛にもだえ苦しむ事20時間…

分娩室に産声が上がる。

午前5時36分

2100gの男の子と、1960gの女の子が誕生した。

二人は少し小さめだけど、力いっぱい泣いていて、すこぶる元気のようだ。


「お父さん、抱っこしてあげてください」

無表情の女医に促され、匠さんは産まれたての双子ちゃんを順番に抱っこする。

その小さな手に触れた時、匠さんのアーモンドアイには薄らと涙が浮かんでいた。

それは、私と匠さんだけの秘密である。


男の子は圭人(けいと)、女の子は英茉(えま)と名づけた。

双子ちゃんが私と匠さんの宝物となることは言うまでもない。
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