嫌いになりたい
奪われた唇
「ちょっと───」


「え?」


仕事帰り

疲れた足取りで歩いていたあたしの目の前が、突然ブレる


「やっ!」


声を出せたのは、それだけ

突然の出来事に恐怖で体が固まった

腕を引っ張られ、路地に連れ込まれた先で壁に押し付けられる

顔は逆光で見えない


「急にゴメン。ちょっとだけ───」


次の瞬間


「───っ!んっ…ふ───」


甘い匂いに包まれたかと思うと、口の中にねじ込まれる相手の舌


「や…」


壁に押し付けられた体は、捩(よじ)ることさえ出来ない


「ちょっ…、何してんのよっ!」


目の前の肩越しに、女の人の怒鳴り声

その声が聞こえた途端、舌に絡んでいたそれがあたしの耳たぶを甘噛みした


「んっ!やっ…」


耳たぶにかかる、熱くて艶のある吐息

その熱があたしの体を痺れさせる


「朔!」


「………何?」


気怠そうに反応する『サク』と呼ばれた人物

体を半分だけ背後に傾けたから、サクの横から光があたしを照らした

眩しくて目を細めると、その姿が少しだけ鮮明になる
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