「昨日貸していただいた上着、今日の朝クリーニングにだしました。仕上がりは金曜の午後だそうです。ハンカチは上着が出来上がったら一緒に返します。それで、あの、返すときどうしたら……」

言葉の途中でしっかりとこちらに体を向けた専務は口許を少しだけ緩めた。
その優美な表情にどきっとする。

「俺は君のところまで届けた。だから君も、俺のところまで届けなさい」

「で、でも、わたしみたいなただの社員が役員室には……」

わたしが困った顔をしていると、専務がふっと笑った。
そして上着の内ポケットから黒い名刺ケースをとりだし、中から名刺を一枚だした。

その裏にボールペンで何かを書いている。
そしてわたしに歩み寄り、名刺を差し出した。

「プライベートの番号だ。連絡をくれ」

わたしは目をぱちくりさせながら受け取った。
あの藤浪専務の連絡先。
胸が高鳴る。嘘でしょう、と言ってしまいそうだ。

「それじゃ」

再び背を向けた専務は歩いて去っていった。
わたしはしばらくぼうっと、その場に立っていた。

どきどきが、すごい。
手に持っている名刺には専務の名前。
その裏には、連絡先。

放心状態だったけれどなんとか足を動かしてデスクに戻った。

悠悟と目が合って気まずいと思ったけれど、先程からずっと速い鼓動がわたしの意識を専務の名刺に集中させる。

こっそりと携帯に専務の番号を登録した。

上着を返すために教えてくれた連絡先だけど。
無性にどきどきしていた――

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