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藤浪専務から渡された名刺を部屋のテーブルに置いて、ぼうっとそれを眺めていた。

あの後しばらくしてからも、悠悟はなにも言ってはこなかった。オフィスでは仕事に集中していた。

わたしはたまに悠悟の声や視界に入った姿で胸がズキズキとする時があったけど、そういう時は書類や資料に目を向けて意識しないようにした。

悠悟と姉が抱き合っていたあの雨の日はショックで、いい歳して座り込んで泣いてしまったけれど、ここで泣くわけにはいかない。

子供じゃない。大人で社会人なのだからしっかりしなきゃいけないときはする。

そしてわたしには他にも気になることがある。

それがこの名刺の人……。

あの藤浪専務だよ? プライベートの連絡先を知ることになるなんて思わなかった。

直接関わることなんてなかったのに、あの日声をかけられてからわたしは専務のことを考えるようになったの。

悠悟のことを考えると苦しいけれど、専務のことを考えるとぽうっとする。

だけどね、上着を返し終わったらもう専務とお話をする機会はなくなるから、この胸の高鳴りは今だけだと思う。

わたしは名札に手をのばして触れる。
そしてカレンダーに視線を向けて曜日を確認して、胸の鼓動を速くさせていた――

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