黄昏と嘘
lesson 1

・時事英語研究


大学3回生の春。

いくら興味があるからって月曜の1講目はキツイなあ。
そういや夏休みにインターンシップ紹介で就職課に寄るようにって言われてるんだっけ。

そんなことを思いながら日ノ岡 チサトはアクビをかみ殺し、階段教室の少し前よりの真ん中の席に陣取っている。

春眠、暁を覚えず……、なんてうまいこと言ったものだ。なんとなく外を眺めれば5月、初夏らしく緑が眩しい。
今でも緑は濃いがそのうち梅雨が来て夏が来れば一層緑が濃くなってくる。
原色の季節はもうすぐ。

総合大学でも彼女の属する外国語学部はどちらかと言えば女子学生の多い学部だが、この「時事英語研究」の授業に関しては月曜の1講目ということもあるせいか、特にこの授業に関しては男女関係なく学生は少ない。

100人は入るだろうと思われる広い階段教室の半分も学生はおらず、その学生たちもどちらかと言えば真面目で優秀そうな人間ばかりだ。

だからと言ってチサトも真面目で優秀なのかと言えばそうでもなく、毎日、英語漬けの日々のはずなのにこれと言ってリスニング、リーディング力、共にそんなに進歩はない。
TOEFLやTOEICを受けてみてもなかなか高スコアは出せず、どちらかと言えばその他大勢の学生のひとりだろう。

専門必修科目はすべて英語で行われているため、いつも力んで授業に挑む。
だからせめて選択科目くらいは日本人の先生がいいとこの科目を選び日本語で行われるこの授業は楽勝だと思っていた。

でも実際、授業を受けてみると全くそうではなく、内容はとても難しくだんだんと授業で先生が話す日本語の意味さえ理解できなくなっていた。

月曜1講目、難しい授業-。
それでも彼女が真ん中の前よりの席を陣取っているのには単位が欲しい他にもうひとつ理由があった。

それはこの授業の先生に恋愛感情を抱いている、ということ。
はじめは本当に難しい授業についてゆけず、ただの苦痛でしかなかった。

でもひとつ、授業の内容が理解できたとき、すごくうれしくなり、それがまたひとつ、ふたつ、と増えてゆくたびにいつの間にか「時事英語研究」に興味を持ち、そして敬遠していた授業のはずなのにこんなにも興味を持たせる先生の授業の進め方に彼女は尊敬の念を抱くようになった。

その思いはやがて憧れになり、好意へとかわってゆくのにそれほど時間はかからなかった。

やがて先生としても、男性としても、いつの間にか彼女にとって彼の存在は絶対的なものになっていた。

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