黄昏と嘘

・逃避行


「じゃあね、また明日」

「うん、バイバイ」

大学の正門を出てカノコと別れたチサトはいつものように図書館で寄り道するつもりで私鉄の駅へと向かう。
本当は疲れたから早く帰ってのんびりと過ごしたいのだが、あまり早く帰ることはなんとなくアキラの意に反しているような、自分の存在が彼にとっては良いものではないことはわかっているからできるだけいない方がいい。
そうすることで彼も早く帰ることができる時は気にしないで帰れるかもしれないと思っていつもまっすぐに帰ることは避けてきた。

でも・・・。

駅の改札のところまでやってきたチサトの足が止まる。

夕方、人が多くなった駅の改札でぼんやり立ち、少し首をかしげた。
思い込みかもしれない、都合良く解釈しているだけかもしれない。
最初の頃よりもアキラはチサトに対して、いや、相変わらず不快に思っていることには違いない。
それは違いないのだが、もしかしたら少しはマシになっているのではないだろうか。
そんなことをふとふと思った。
そして彼女自身、気付けばあの家にいて息苦しさを感じることもなくなっていた。

このまま寄り道しないで帰ろうか。
大丈夫かな。


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