ありふれた恋でいいから

流れゆく日常と褪せない過去

「実乃、ごめんって。もう二度としないからさ」
「…二度とって。これで何度目だと思ってるの?」
「今度こそホントだから、信じて。好きなのは実乃だけだって。な?」
「……もういい。私が帰ってくるまでに出て行ってて」
「ちょっ……実乃!」

目の前で手を合わせて拝み倒す姿に言葉を投げ付けて、アパートの玄関を出る。

懇願していたくせに追いかけてくる様子もない不甲斐無い恋人に、諦めに似た溜息をついて階段を下りた。

春先の夕方は日が暮れてしまえばまだ肌寒くて、上着を持たないまま衝動的に家を出てきたことを、少し失敗したなと心の何処かで悔やんだ。





―――あの日からもう、3年。

私は、畑野くんとは違う大学に通い、まもなく4年生になろうとしていた。
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