ありふれた恋でいいから

伸ばした手の先にあるものは

―――行かないで。

遠くなる背中に手を伸ばしたいのに。
振り返らない背中を呼び止めたいのに。
どうしてだろう。



『…須藤、ごめん』



その瞬間、彼の絶望に満ちた声を思い出して、いつも体が動かなくなるんだ。

これは彼が決めたこと。
彼が選んだことなんだと。

だけどどうしても、心は張り裂けそうなほどに叫ぶのをやめない。




行かないで。



行かないで、畑野くん……。




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