“毒”から始まる恋もある
4.忌憚のないご意見を

「いらっしゃいませ。刈谷様、本日はお忙しい中、お時間頂きありがとうございます」


痒くなるほどご丁寧な口調で頭を下げるのは、先日からやたらに会話することの多い数家さんだ。

この人は全体的にさっぱりした印象がある。
髪型もそうだけど顔も。空気のように風景に溶け込む感じがある。


「どうも。あ、この契約書ってやつは?」

「お預かりします。お席はこちらです。どうぞ」


通されたのは以前も入ったことのある小上がりだ。

席には既に、二十代前半くらいの若い女性と、五十近いであろうスーツを着こなしたおじ様がいる。
どちらも上品そうな感じで気後れがするなぁ。


「こちら、新しくモニターを引き受けてくださった刈谷様です。刈谷様、こちらの男性が北浜様、女性が紫藤様です」

「どうも」

「こんばんは」

「女性のお仲間ができて嬉しいです。どうぞ」


紫藤さんという女性が、小首をかしげて微笑み、隣を開けてくれる。
空気を柔らかくする癒し系の女だわ。あんまり好きじゃないタイプ……てか、キライ。
まあでも、社会人としては相応の笑顔で対応する。


「お邪魔します」


そうすると対面が北浜さんというおじ様になる。
スーツが着慣れている感じで風格がある。きっと会社でもそこそこの役職についているだろう。


「僕はここの鍋のファンでね。いつも新作鍋は楽しみにしているんだ」

「モニターは長いんですか?」

「僕はこの店が出来てからずっとだ。店長と知り合いなものでね」


ほうほう、まさに常連さんなのね?

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