螺旋上の赤
第6章  ALEX
第6章  ALEX


「——あ、あ〜……。
 何かそんなこともあったような気がする……うろ覚えだけど。
 上履きに名前とか書いた気もする……名前は忘れてたけど。」

「アレだけ堂々と人様の上履きに捻じ曲がった字を書いたのに、
 その書いた名前を忘れてたのか……。」

「今の今まで上履きに名前を書いたこと自体忘れてたけどね……。
 上履き洗ったのとか何となく覚えてる。
 そっか、あのときの名無し君かぁ。」

「その名で呼ぶのはやめてくださいお願いします。」

私が名前を覚えて居なかった事が相当ショックだったのか。
ヤツはしばらくの間俯いて、ブツブツと何かつぶやいていた。
客観的に見るとアブナいヤツみたいだ。

「やっぱりなぁ……。
 ——でも、あの時、ちゃんとしときゃ……。」

とかなんとか。

その姿が見た目より幼く見えて、可愛かった。
危うく頭を撫でてあげたい衝動に駆られ、誘惑に負けそうになる。

そんな誘惑を断ち切ろうと川のほうへ目をやると、薄い雲の切れ目から月明かりが射したその先に、キラリと光るものがあった。

「あーっ!あそこ、あそこ見て!
 ほら、アレックスだ!」

やっとみつけた!
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