SAKURA ~sincerity~
奇跡のプレゼント
「あ! その漫画読んでた!」

 寒さが長引き、桜の蕾がようやく開き始めた四月のある日、バイトまでの時間を桜と過ごす為に病院を訪れた拓人は、病室の前で桜と会話を交わす聞き慣れぬ少女の声を耳にした。

「あたし、この作品大好き!」

「あたしもあたしも!」

 病室の白いドアを通して響いてくる少女たちの弾けるような談笑。久し振りの楽しそうな桜の声に、拓人は思わず入室をためらった。

 誰だろ? 楽しそうだけど。

 高校、もしくは中学時代のクラスメートかと記憶を巡らせてみたが、声に聞き覚えはない。漏れ聞こえてくる会話からだと、何となくだが、旧友ではない気がした。

「愛蔵版持ってるから今度持って来てあげるよ」

「本当?」

「うん。……あ、もうこんな時間だ。じゃ、またね」

 楽しそうな会話が突如途絶え、勢いよく病室のドアが開く。その勢いに驚いた拓人と、病室を出ようとした少女の視線が、真正面で見事に鉢合った。

「あ……」

「きゃ……」

 互いに驚いて目を丸くし、少女が一瞬息を止める。

「ご……ごめんなさい!」

 少女は慌てて頭を下げると、まるで春のそよ風のように拓人の横をすり抜け、エレベーターの方へ駆けて行ってしまった。

「誰?」

 病室に入り、一呼吸おいて落ち着いた拓人が尋ねると、ベッドの上でその様子を見ていた桜はおかしそうにクスクスと笑いながら答えた。

「看護師の椎名(しいな)さん。先月学校卒業して、今月からここで働いてるんだって。あたしと同じ四月生まれで、もうすぐ二十一歳なんだって。何か気が合っちゃって、よく話すんだ」

 桜の嬉しそうな言葉に、さっきちらっとだけ見た彼女に関心する。同い年でもう働いているんだ……。一瞬だけだったが、実年齢より少し若く見え、高校生と言っても大丈夫なくらいの、少しあどけない顔立ちをしていたように感じた。

 社会人か。

 その場に立ち、"社会人"という響きに何となく感傷に更ける。準平や竹内もこの春から働きだしたし、俺も二年後には……。

「……ふう」
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