SAKURA ~sincerity~
夜桜
「久し振り」

 久し振りに病室を訪れた準平に桜が嬉しそうな声をあげる。

「すっかり見違えたね」

 職業柄、高校時代と比べるとすっかりお洒落になった準平を見て桜がおかしそうにクスクス笑う。

「ピアスして、髪も伸ばしちゃって、七海もだけど、逢う度どんどんお洒落になってくね。昔は丸坊主でランニングに短パン、真っ黒に日焼けして猿みたいだったのに」

「さ、猿?」桜の言葉に準平は大げさに目をむいた。

「猿はねーだろ、猿は!」

「猿だったよ、あっちこっち飛び回ってたじゃん」

 昔を思い出してか桜は更におかしそうにクスクス笑う。

「お前だって網片手に走り回ってたじゃねーかよ」

「ふふ、そうだった」

 幼馴染みの二人は本当に小さい頃から一緒だったらしく、拓人や七海よりも思い出が遥かに存在する。

「最近……昔の事ばかり思い出すよ。何もしないで病室にいるせいかな……」

 準平から視線を外して桜が呟く。その声はまるで花びらが全て散ってしまった葉桜のように、寂しく儚く、準平の胸を苦しく締めつけた。

 痩せて痛いくらい細くなってしまった長い手足。健康的で適度に肉付きのよかった体や、筋肉質な割に豊満だった胸もすっかり薄くなってしまっている。

「……外の桜、もう満開?」

「まだ八分かな。でも結構綺麗だぜ」

「そう、ここからは見えないんだよね……」

 少し哀しそうに桜が言うと、準平は車椅子を用意し、頼もしげに桜を見た。

「出るか?」

「……うん」

 うなずいて、桜が被っていたニット帽を直す。準平は屈み込むと桜の腕を自分の首に回し、ふわりと抱き上げた。その瞬間、静かに準平の鼓動が波打つ。が、準平はそれを表情には出さず、代わりににんまり白い歯を見せた。

「おらよ、お姫様抱っこだぜ? 女はこれが好きなんだろ?」

「ふふ」

 準平の言葉に桜が小さく笑う。準平はゆっくり桜を車椅子に座らせるとカーティガンを渡し、病室を出た。

「凖ちゃんは変わらないね、見た目はどんどんお洒落になってくけど、中身は昔のまま……」
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