SAKURA ~sincerity~
Sincerity
「綺麗……」

 校庭の隅に立つ大きな桜の樹の下に着くと桜は、満開になった花を見て、そう声をあげた。

「ちょうど今、満開だな」

「うん」

 拓人は樹の根元の芝生に座ると、持って来ていたジャケットを桜にかけ、ゆっくり抱き締めた。

「ここで初めて……拓ちゃんに告白したんだよね」

「ああ」

 拓人の脳裏に、五年前のあの春の桜と桜が蘇った。固い蕾のように緊張していた十六歳の桜。その後ろで、満開を迎えたこの樹が枝一杯に花を広げ、咲き乱れていた。

「あれからもう、五年経つんだね……」

 満開の桜が、夜風に静かに揺れる。桜の胸元で、金色の縦ロールも微かに揺れた。

「格好いい……」少し苦しそうに桜が呟く。「これ……お店の制服……?」

「ああ」

 バーテンダーの格好のままの拓人を桜が見るのは、今夜が初めてだった。桜は普段とは少し違う拓人の姿に、嬉しそうに口元を緩めた。

「嬉しい……。見て……みたかったんだぁ……。拓ちゃんのバーテンダー姿……」

 切れ切れになる言葉。桜を抱く腕に自然と力がこもる。

「拓ちゃん……」長く息を吐き出しながら、桜が花を見上げた。

「もっと……もっとたくさん、拓ちゃんと……抱き合いたかったなぁ」

 風にほんのり色がのる。

「もっとたくさん……キス……したかったなぁ」

 夜風が少し、冷たくなる。

「チェリー・ブロッサム……飲みたかったなぁ」

「……馬鹿」桜の告白を拓人は遮った。

「いつでも作ってやる。こっそり病室に持ってくよ」

「ふふ」

 拓人の優しい言葉に桜は微笑み、ゆっくり腕を伸ばすと、拓人の茶色の髪に触れた。

「拓ちゃんのお嫁さんになって……ウエディングドレス……着たかった……」

 重く鈍い痛みに襲われ、拓人は言葉が出なかった。

「拓ちゃんの赤ちゃん、産みたかったな……」

「……」

「皆、つまんないって言うけど……専業主婦とか……してみたかった……。拓ちゃんの奥さんになって、買い物とか、育児とか……」
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