SAKURA ~sincerity~
約束
 桜の葬儀は教会で行われた。

 桜自身は敬虔なクリスチャンではなかったが、先祖代々カトリックを信仰していたので、今でも日曜の朝に両親が訪れている教会で、葬儀が行われる事になった。

「お願いがあるんです」

 葬儀前夜、史朗たちの元を訪れた準平と七海は、桜の願いを叶えるべく、眠る彼女に純白のウエディングドレスを着せ、メイクを施し、拓人と対面させた。

 棺の中で眠る桜はほんのりピンク色の頬をし、今にも微笑み出しそうな唇にもやはりピンク系のルージュを引き、気に入っていた縦ロールのウィッグをつけ、本当に美しい花嫁姿で、拓人の前に現れた。

「綺麗だよ、桜」

 二人だけの空間、拓人は照れくさそうにうつむき、そっと桜の手を握った。

 ごめんな、桜。

 ずっと見つめている胸に、ある想いが去来する。拓人は唇を噛み締め、今度はそっと、額に触れた。

 もっと、たくさんの言葉を言えばよかった。

 拓人の頬を、涙が伝い始める。

 もっともっと、たくさんの愛を……伝えればよかった……!

『初めて……言ってくれたね……。"好き"って……』

 あの夜の桜の言葉が胸に蘇る。

 ごめんな……。桜。

 すまなさと申し訳なさと、悔恨で目頭が熱くなる。拓人はこらえ切れず、小さく嗚咽を漏らした。

 側にいれば伝わると思っていた。信じていた。だから何もしてこなかったし、何も言わなかった……! でも間違っていた。それは俺の独り善がり。結果的にずっと、桜に寂しい想い、させていただけ……!

『本当にあたしの事、好き?』

 大好きだったよ。色あせる事なくずっと。

 たくさんの思い出とたくさんの言葉。拓人は桜から、本当にたくさんの愛を貰っていた事に、その時初めて気付いた。

 もっと、大事にすればよかった……! もっともっと、愛を返せばよかった……!

 悔し涙が目頭を熱くする。

「桜、ごめんな……」

 何もしてやれなかった……!

 別れの朝が刻一刻と近付く最後の夜。拓人はずっと、桜の側を離れなかった。




 葬儀には入院中に桜と仲の良かった看護師の椎名も参列し、眠る花嫁となった桜に最後のお別れをしてくれた。
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