SAKURA ~sincerity~
淡い春、淡い花
あれから五年が経ち、また春が巡って来た。
桜が天に召された翌年の春、拓人は無事に大学を卒業し、バイトを辞め、昨年から偶然にも、桜と付き合い始めたあの高校に講師として赴任していた。
今年も綺麗に咲いたよ。
満開を迎えたあの桜の樹の下に立ち、拓人はある人を待っていた。
あれから……もう五年か。
夜風が少し冷たい。今年は暖冬で、桜は例年より早く満開を迎えていた。
準平から報告来たか? あいつ、竹内と六月にやっと結婚するんだぜ。
準平と七海は長い春をようやく実らせ、六月に結婚する事が決まった。今時珍しく仲人を立てたという。つとめるのは、桜の両親である浅野夫妻だった。
式には出てやってくれよな。
「拓!」
突然、闇の中から声がし、拓人はゆっくり、声のした方を向いた。
「ごめんね、迷っちゃって……」
茶色のセミロングを揺らし、淡いピンクのワンピースに身を包んだ女性がこちらへ駆けて来る。
「ここの名前は知ってたから、大丈夫って思ったんだけど、もっとちゃんと聞いておけばよかった。待ったでしょう?」
「ううん」
彼女を優しく見つめながら拓人が首を軽く振る。彼女は拓人の側の桜の樹を見上げ、呟いた。
「ここが――拓と桜ちゃんの思い出の樹……なんだね」
「ああ」
「桜ちゃん、綺麗な花、咲かせたね」
「ああ、今年も綺麗に咲いたよ」
親しそうに拓人の名を呼び、桜の事を話す女性。
「咲良(さくら)」
拓人が彼女の名前を呼んだ。
咲良――拓人の横に立つ女性の名前。彼女はあの、看護師の椎名だった。良く咲くと書いて"咲良"なのだと、偶然再会した時に聞かされた。四年前の春、二人は一周忌を迎えた桜の墓前で再会した。
その日、準平たちとの約束より一時間も早く墓地に到着した拓人は、二人の時間を過ごそうと一人先に中に入って桜の墓前へと向かった。すると、今日と同じ淡いピンクのワンピースを着た咲良が、桜の墓に花を手向けていた。
「椎名さん……?」
桜が天に召された翌年の春、拓人は無事に大学を卒業し、バイトを辞め、昨年から偶然にも、桜と付き合い始めたあの高校に講師として赴任していた。
今年も綺麗に咲いたよ。
満開を迎えたあの桜の樹の下に立ち、拓人はある人を待っていた。
あれから……もう五年か。
夜風が少し冷たい。今年は暖冬で、桜は例年より早く満開を迎えていた。
準平から報告来たか? あいつ、竹内と六月にやっと結婚するんだぜ。
準平と七海は長い春をようやく実らせ、六月に結婚する事が決まった。今時珍しく仲人を立てたという。つとめるのは、桜の両親である浅野夫妻だった。
式には出てやってくれよな。
「拓!」
突然、闇の中から声がし、拓人はゆっくり、声のした方を向いた。
「ごめんね、迷っちゃって……」
茶色のセミロングを揺らし、淡いピンクのワンピースに身を包んだ女性がこちらへ駆けて来る。
「ここの名前は知ってたから、大丈夫って思ったんだけど、もっとちゃんと聞いておけばよかった。待ったでしょう?」
「ううん」
彼女を優しく見つめながら拓人が首を軽く振る。彼女は拓人の側の桜の樹を見上げ、呟いた。
「ここが――拓と桜ちゃんの思い出の樹……なんだね」
「ああ」
「桜ちゃん、綺麗な花、咲かせたね」
「ああ、今年も綺麗に咲いたよ」
親しそうに拓人の名を呼び、桜の事を話す女性。
「咲良(さくら)」
拓人が彼女の名前を呼んだ。
咲良――拓人の横に立つ女性の名前。彼女はあの、看護師の椎名だった。良く咲くと書いて"咲良"なのだと、偶然再会した時に聞かされた。四年前の春、二人は一周忌を迎えた桜の墓前で再会した。
その日、準平たちとの約束より一時間も早く墓地に到着した拓人は、二人の時間を過ごそうと一人先に中に入って桜の墓前へと向かった。すると、今日と同じ淡いピンクのワンピースを着た咲良が、桜の墓に花を手向けていた。
「椎名さん……?」