満ち潮のロマンス
大失態を仕出かした家の前。思い出すと今でも恥ずかしくて仕方ない。あの人の中では迷惑な人だったんだろうなぁ…

広い玄関をくぐって石畳を少し歩いてチャイム。
一度鳴らす。

心臓もばくばくして落ち着かない。
間を開けて二度目。

留守?かな?


強めの風が一気に吹いて辺りの草木がばさばさと音をたてながら揺らす。
庭のほうを見るとスッと猫が出てきた。

あ!黒猫!
探してた猫ちゃん帰ってきたんだぁ
スマートで毛づやの良い黒猫
にゃぁ と小さく鳴いて軽そうな体を翻してまた庭のほうに戻っていく

もう一度強い風が吹いたと思ったら庭のほうから何枚かの紙が飛ばされてきた。

え!?原稿用紙??
風で飛ばされてる!

落ちてる用紙を広い集めてたら庭の方へ入ってしまった
広くて整った綺麗な庭。

家のほうを見ると縁側に置いてある藤の椅子に腰を掛けて…先生が眠って居た。

一気に私の目の前が明るくなって先生を照らす。

手元にはたくさんの用紙、それが風で飛ばされてしまっていた。

またばさばさっと音を立てて何枚かの用紙があの人の手元から飛ばされそうになった

「あ…!」

駆け出して手元の用紙を飛ばされないようにそっと支える

せ、セーフ!

顔を見たその瞬間ゆっくり眼を開けた。

「…あれ…?」

眼が合ってから顔が凄い近くにあることが分かるまで数秒かかった。

「…ゎっ、ごっごめんなさい!あのっ用紙が飛ばされて…ましたっ」

ささっと離れて用紙を差し出す。
あまりにもびっくりして顔を見ることが出来ない。

「ははっありがとう。寝てしまっていたね助かりました。」
「すみません勝手に入っちゃって…」
「いいえ。拾ってくれてありがとう」

そう穏やかに言いながら私の手をそっと引いて用紙を取った。

「これがなくなると大変だった。
あぁ、良かったらお茶でもいかがですか?」

静かに笑いかけられ私は動けないままだった。

「は…い…」

触れられた手だけが熱い。
逢えた事に嬉しくて触れられた事にこんなにも心が騒がしくなってしまうなんて。

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