左手を使わず、右手だけを使うように意識してきた六年間。

その枷が崩れてゆくような音が頭に響く。

重りから解放される感覚。

不自由さが抜けていく躍動感。


…何かが、変わる気がした。


堪らなくなって、鉛筆を投げ捨て椅子から立ち上がると、俺はラケットバッグを担いで寮棟を飛び出していた。

受付窓口の向こうの部屋で爺ちゃん先生が、興奮して駆けてゆく俺を不思議そうに見ていたが、そんなことはちっとも気にならなかった。


夜中。

俺は志士頭学園グラウンドの柵を乗り越えて、石壁の前でラケットを抜いた。

自分自身を焦らすように、右手でラケットをバッグから抜き、勿体ぶって緩慢に左腕に持ち替える。

そして、



「ッア゛ァ!」


俺の怒声と共に、石壁に向かってハイスピードで、そのスピーダーは駆けていった。

俺はこの日から、サウスポー(左利きの選手)として活躍することを決めた。

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